土地・建物

自殺の事実が不動産売買・賃貸の取引において損害賠償の対象となることについて解説をします。

この記事を書いたのは:木下 敏秀

1 契約当事者には説明義務があります。

 不動産売買・賃貸の取引(売買契約や賃貸借契約)の当事者については、契約上の「付随義務」としての説明義務があります。

 この契約当事者の説明義務は、売買契約や賃貸借契約に記載がないとしても、契約当事者が負担する法的な義務になります。

2 宅地建物取引業者の説明義務には法的根拠があります。

 宅地建物取引業法35条(以下「宅建業法」という)には、不動産の売主・貸主となろうとする者を媒介または代理する宅建業者と自ら売主になろうとする場合には、宅建業法35条所定の書面(重要事項説明書)を交付し、契約当事者に説明をする義務があることが規定されています。

3 土地の売買において土地上の建物で20数年前の自殺を説明しなかった宅地建物取引業者が不法行為責任を負った事例

【松山地裁平成25年11月7日判決】

 宅地建物取引業者が土地の売買の仲介において、土地上の建物(建物は取り壊されていた)にて20数年前に所有者の娘が自殺し、事故物件であることの説明義務違反があるとして、土地の買主夫婦が、不法行為に基づき、財産的損害(土地の減額分、仲介手数料、登記手続費用、境界確認等費用、不動産取得税、銀行借入金利)、慰謝料、弁護士費用の損害賠償請求をしました。

 裁判所は、説明義務違反による不法行為を認め、宅地建物取引業者に対し、慰謝料各75万円(買主夫婦)、弁護士費用各10万円(買主夫婦)を認めました。財産的損害の請求は否定されています。

4 土地建物の売買において約12年前の自殺を告知しなかった売主が不法行為責任を負った事例

 【東京地裁平成29年5月25日判決】

 土地建物の売買において、約12年前にに建物居住内で首つり自殺があったことを告知しなかったことが告知義務違反として、土地建物の買主が売主に対し、契約解除に基づく違約金と手付金の返還を請求しました。

 裁判所は、自殺の不告知は債務不履行に当たるとし、売買契約及びその解除に基づき、違約金160万円と手付金50万円の返還を認めました。

5 建物の賃貸借契約において約1年前の自殺を説明しなかった貸主が不法行為責任を負った事例

【神戸地裁平成25年10月28日判決】

 マンションの賃貸借契約において、約1年前に建物巨樹内で自殺をしたことを説明しなかったことを説明義務違反として、借主が財産的損害(礼金、引越費用等)、慰謝料、弁護士費用の損害賠償請求をしました。

 裁判所は、説明義務違反による不法行為を認め、財産的損害74万0692円、慰謝料20万円、弁護士費用10万円を認めました。

6 不動産の売買において、サイバー犯罪の犯人が住居としていたことを告知しなかったことは告知義務違反ではないとした事例

【東京地裁平成29年7月5日判決】

 自殺の事案とは違いますが、参考となる裁判事例があります。不動産売買において買主が、建物には他人のパソコンを遠隔操作して複数名の誤認逮捕を生むなどして世間の耳目を集めた威力業務妨害等の重大なサイバー犯罪の刑事事件の犯人が居住していたことを告知しなかったとして、告知義務違反の損害賠償請求をしました。

 裁判所は、建物で犯人がとった行動はウイルスの作成、感染させたパソコンの操作に過ぎず、住居の効力を悪化させる影響が生じたとは認められない。また、同事実が世間一般に知られていたともいえず、耐え難い程の心理的負担を負って居住が困難になった事情は認められないとして、請求を棄却しました。

 再婚の事情等の場合でも変更とならないこともあります

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 不動産取引における説明義務違反は多岐な問題があり、ご相談の事案に則したケースバイケースの分析が大変重要になります。

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この記事を書いたのは:
木下 敏秀