土地・建物

相続登記の義務化が2024年4月1日からスタートします。

この記事を書いたのは:高橋 寛

          プロローグ

愛知県春日井市に住む会社員のAさんは63歳になります。Aさんには60歳の奥さんとの間に、35歳になる長男と32歳の長女がいます。

長男と長女は二人とも結婚し、長男は名古屋市内に、長女は小牧市に住んで、それぞれ小さな子供がおります。その子供たちは、Aさんにとって目に入れても痛くないほど可愛い孫です。

1年前に愛知県大口町に住んでいたAさんの父・甲さんが90歳で亡くなりました。亡くなった甲さんの法定相続人は、お母さん(甲さんの妻)とAさんの二人です。生前の甲さんは農業を営み、大口町に自宅のほか畑を所有していました。

父の甲さんが亡くなった後も、お母さんは健康で、畑を耕し自分の家で食べるくらいの野菜を作っているので、今のところ、お母さんの生活に心配はありません。

会社員のAさんは、春日井市内に自分の家がありますから、お父さんの遺産である実家の土地・建物が必要ではないため、相続登記はそのうちに手続きすればいいだろうと思っていました。

ところが、この度、相続登記の義務化が報道されたので、相続登記の義務化とはどうい内容なのかに関心を向けることになりました。

1 相続登記はどのような場合に行うのでしょうか?

 相続の土俵では、亡くなった人を被相続人といいます。ある人が亡くなったことを原因として、亡くなった人から財産を受け継ぐ人を相続人といいます。

 被相続人から相続人へと不動産の所有名義が変更したことを登記するのが相続登記です。

 土地・建物といった不動産の所有者は、法務省の法務局に備え付けられている登記簿で管理されていますから、相続登記は、その不動産の所在地を管轄する法務局に申請して、不動産登記簿に記載してもらいます。

 遺産分割協議や遺言で相続人が決まっても、相続登記が正しく行われていなければ、第三者に対して土地・建物の所有権を主張することはできません。

2 相続登記が義務化されるのは何故でしょうか?

 この度の不動産登記法改正の前までは、相続登記をいつまでにしなければならないか、明確なルールがありませんでした。

 相続登記が行われないまま放置されると、誰が所有者か分からない建物や土地が年々増え続けます。我が国は地震列島と言われるくらい世界でも有数の地震国で、国内のあちこちで大小の地震が毎年発生しています。

 今年も正月早々に能登半島地震が発生して、多くの建物が消失したり倒壊し、日夜復旧作業が進められています。その渦中にあって、所有者不明の建物を撤去していいのかどうか、復旧作業隊を悩ましていると報じられています。

 このような事態を招かないためにも、不動産の所有者を明確にしておく必要があるので、相続登記の義務化が決定されました。

 相続登記を何年も行わないで放っておく原因の一つに、相続登記をして土地・建物の所有者になると固定資産税の支払い義務が発生するので、課税を避けるため、あるいは課税時期を先送りにするためなどが理由です。

 所有者不明不動産の増加を防ぎ、かつ、土地活用化を図る施策の一環として、相続登記の義務化が決められたものと考えられます。

3 相続登記の義務化はいつから始まるのでしょうか?

 相続登記の義務化は、2024年4月1日からスタートします。

 義務化の対象となる相続登記は、「相続の開始及び相続による所有権の取得を知った日から3年以内」に相続登記をしなければいけません。

 なお、亡くなった人(被相続人)が不動産を所有していることを、相続人が認識していなかった期間は、この3年以内には含まれません。

 また、相続人が複数いる場合は、その中で最も遅く相続の発生を知った人が「相続の開始及び所有権の取得を知った日」から3年以内に相続登記をしなければいけません。

 例えば、遺産分割協議によって不動産の所有権を取得した場合は、遺産分割協議が「相続の開始及び所有権の取得を知った日」になりますから、その日から3年以内に相続登記をする必要があります。

4 相続登記の義務化は、いつの相続から適用されるのでしょうか?

 相続登記の義務化が施行される2024年4月1日より前に相続した不動産でも、2024年4月1日までに相続登記を行っていない場合は、この4月1日から3年以内に相続登記を行わなければなりません。

 客観的には2024年4月1日より前に不動産の所有者となっていたが、相続したことを覚知したのがこの4月1日より後の場合は、相続を覚知した日から3年以内に相続登記を行わなければなりません。

5 住所を変更した場合の変更登記も義務化されました。

 この度の不動産登記法改正では、不動産の所有者が「氏名・住所を変更」したときも、変更から「2年以内」に変更登記を行うことが義務化されました。相続登記を済ませていても後に氏名や住所を変更したのに、その変更が登記されていなければ、所有者探しに手間暇と費用がかかるため、2年以内の変更登記が義務化されました。

6 義務化された相続登記を行わなかった場合は、どうなるの?

 相続によって取得した不動産について、正当な理由がないのに3年以内の相続登記を行わなかった場合は、10万円以下の過料を求められる可能性があります。

 また、不動産の所有者が氏名・住所を変更したにもかかわらず、2年以内にその変更登記を行わなかった場合は、5万円以下の過料を請求される可能性があります。

7 お助け制度が新しく導入されます。

 遺産分割協議は、相続人の人数が多かったり、遠隔地に住んでいるなどの諸事情によって難航するケースが多々あります。そうなると、3年以内という期間内に相続登記ができない場合が生じます。

 遺産分割協議が長引く場合を救済するため、今回の不動産登記法改正では、「相続人申告登記」という新しい制度が導入されます。

 相続人が登記申請義務を簡単に履行することができるようにと、新しく設けられたのが相続人申告登記です。この制度は

   (1) 所有権の登記名義人に相続が発生したこと

   (2) 自分がその相続人であること

を法務局へ申し出ると、登記官が不動産登記簿にその旨を記載します。この記載によって、新設される相続登記の義務を果たした(履行した)とみなされ、3年以内という期間内に相続登記をしなかった場合の罰則を免れることができます。

相続人申告登記には、次のようなメリットがあります。

 ア)3年以内に利用すれば、相続人登記の義務を履行したとみなされる。

 イ)相続人が複数いても自己単独で申請できる。

 ウ)申請する相続人が、亡くなった所有者の相続人であることが分かる書類(例えば、戸籍謄本)のみ で申請できる。

 このように、相続人申告登記は、相続人の中で誰がその土地の所有権を所有するかを決めなくても、その不動産の法定相続人が誰であるかを証明できれば、相続登記の義務を履行したとみなされます。

 相続登記の申請には、相続人全員の承認が必要ですが、相続人申告登記は単独で申請できますから、法務局へ提出する書類の数も少なくて済みます。

  相続人申告登記は、誰が相続人かを証明する制度ですから、この登記で不動産の所有者が誰であるかを証明するものではありません。したがって、遺産分割協議などによって当該不動産の所有者が誰になったかが決まったら、きちんと相続登記をしておく必要があります。

8 相続不動産に関連する新しい制度として、相続財産国庫帰属制度が導入されました。

 土地を相続したものの、自分がその土地を使う予定がないなどの理由で相続登記を行わず、放置している人もいます。このような土地は、放置されたままですと荒れ放題になり、環境を損ねるおそれがあるばかりでなく、土地活用という観点からもマイナスです。

 そこで、新たに成立した「相続土地国庫帰属法」に基づいて、2023年4月27日から一足早くスタートしたのが相続土地国庫帰属制度です。

 この制度は、相続又は遺贈によって土地の所有権を取得した人が、一定の要件を満たした場合に、土地を手放して国に引き渡し、国庫に帰属させることができるという新しい制度です。

 国庫に帰属させることができる土地は、次のいずれにも該当しないことが必要です。

① 建物が建っている土地

② 土壌汚染のある土地

③ 担保権が設定されている土地

④ 他人が通る道として使用されている土地

⑤ 権利関係の争いがある土地

土地・建物に限りませんが、相続については迅速、かつ、的確に対応する弁護士が揃っている旭合同法律事務所にお声掛けください。


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高橋 寛