交通事故

自動車にまつわるこぼれ話おもしろ話あれこれ

この記事を書いたのは:高橋 寛

1 人と物の移動に自動車は無くてはならない時代です。

   

 今回は、肩の力を抜いて、少しリラックスしていただくために、自動車をめぐるこぼれ話、おもしろ裏話をい くつか紹介します。

  

2 無いのに有るブレーキ

 (1) Aさんが住んでいる愛知県春日井市は、温暖な気候ですから市内で雪が積もることは殆どなく、積もってもすぐ溶けてしまいます。

 Aさんは、1月下旬の土曜日、家族孝行のつもりで愛車を運転し、長野県のスキー場へと向かいました。

 スキー場に近づくと雪道になり、Aさんは時速30㎞くらいの低速で、慎重に運転していました。50メートルほど前を走るトラックが赤信号で止まったので、Aさんも止まろうとして急ブレーキをかけました。しかし、タイヤがロックしてAさんの愛車は止まらず、あれよ、あれよという間にトラックに追突してしまいました。

 Aさんが雪道での運転に慣れていなかったにせよ、ゆっくり走っていたのに、なぜ急ブレーキで止まらなかったのでしょうか?

(2) 事故現場に駆け付けた警察官から、Aさんは「雪道ではソフトブレーキを使わないとダメだよ。」と言われました。しかし、Aさんの愛車に限らず、自動車にはソフトブレーキというブレーキは取り付けてありません。車に取り付けてあるブレーキは、フットブレーキとパーキングブレーキの2種類です。ソフトブレーキはどこにあるのでしょうか?

(3) フットブレーキは、運転席の足元に取り付けてあり、足でブレーキペダルを踏み込むことによって、車を減速させたり、停止させるために使います。

(4) パーキングブレーキは、動いている車を制御するのではなく、駐車のとき静止している状態を保つことが目的です。強い制動力は必要ないので、ほとんどの車ではワイヤーの張力で後輪のブレーキパッドを締め付け、静止状態を保てるようになっています。

 パーキングブレーキは、MT車の場合は手で引くタイプのレバー式やステッキ式で、運転席の横に取り付けてあります。そのため、サイドブレーキとも呼ばれています。

 AT車の場合は、フットペダル式のものとレバー式のものがあり、今はフットペダル式が主流です。フットペダルは運転席の足元に取り付けてあり、駐車したとき、このペダルをしっかり踏み込んで、ワイヤーの張力で後輪を締め付けておきます。レバー式の場合は、運転席横に取り付けてあるので、レバーをしっかり引いて後輪を締め付けておきます。

(5) ソフトブレーキは、車に取り付けてあるブレーキではなく、フットブレーキのペダルを踏むとき、ゆっくり、ゆっくりブレーキをかけ、徐々に減速させる運転方法のことです。

 車が走っているとき急ブレーキをかけると、タイヤの回転がいきなり止まりロックされます。乾燥した通常の道路であれば、急ブレーキをかけるとロックされたタイヤと道路面との摩擦で、車は一般的な制動距離で止まります。

(6) 雪道ではタイヤがロックされると、それまで走行していた車の慣性で雪道の上を滑走するため、車を制御できなくなって事故につながります。タイヤがロックされると、慣性での滑走状態になるためハンドル操作による方向修正も効かず、車の速度と方向の制御ができない状態に陥ります。

(7) 慣性による滑走を避けるには、タイヤの回転が直ちにロックしないように、ブレーキペダルをゆっくり踏んで、すこしずつロックへと導き、常に車を制御できる状態にしておくことが必要です。そのためには、雪道では乾燥した道路での運転よりも速度を落とし、先行車との車間距離を十分とって慎重に運転することが大切です。

 このソフトブレーキを使った運転は、雪道に限らずタイヤが滑りやすい雨の日にも応用できる運転方法です。

(8) 他にも、車に取り付けられていないブレーキが幾つかあります。例えば、ポンピングブレーキ、エンジンブレーキ、排気ブレーキです。これらは、ブレーキそのものの種類ではなく、ブレーキの操作方法の違いを表す言葉です。

 そのうちでポンピングブレーキは、車を減速したり停止させるとき、ブレーキペダルをチョン・チョンと小刻みに踏むことによって、いきなりタイヤがロックするのを防ぎ、タイヤの回転を徐々にロックへと導く運転方法のことです。

 ポンピングブレーキは、雪道や雨降りの道路で滑走を避ける効果があるだけでなく、車の後ろに取り付けてあるブレーキランプも小刻みな点滅を繰り返すので、後続車の運転者に自車の減速を認識してもらいやすい利点があります。

              

(9) 次にエンジンブレーキですが、エンジンブレーキは坂道を下るとき、エンジンのギアをセカンドやサードに切り替え、エンジンの回転数を落とすことによって、車の速度がエンジンの回転数を超えないように制御する運転方法です。

 殊に、長い坂道を下るとき、フットブレーキだけでの減速を続けると、ブレーキ装置の過熱と摩耗が進み、経年劣化も早まります。それを避けるためにもエンジンの回転数を落とし、タイヤが一定数の回転を超えて転がらないように速度を制御します。このエンジンブレーキとフットブレーキの併用も効果的です。

(10) 次に排気ブレーキですが、これは軽油を燃料として走るディーゼル車(大型トラックなど)に搭載されている補助的なブレーキ機能のことです。ディーゼルエンジンは、吸入した空気を圧縮し、軽油を噴射して燃焼する力を利用して、シリンダーの中にあるピストンを動かします。

 軽油が燃焼した後、エンジンの内側に二酸化炭素などの気体が発生するため、次の空気を吸入する前に、この余分な気体を排気する必要があります。排気管から余分な気体が排出されると、再び空気が吸入されて、圧縮・燃焼・排気のサイクルが繰り返されます。

 排気ブレーキの機能がオンの状態でアクセルペダルから足を離すと、エンジンから伸びた排気管の弁が閉じて排気ブレーキの機能が作動し始めます。すると、エンジンの内側に発生している余分な気体は外へ逃げることができないため、排気部に圧力がかかります。弁が閉じて余分な気体が外へ逃げられないのでエンジンの中にあるピストンの往復運動が弱まり、これによって、フットブレーキとは別の作動原理で車が減速します。

3 自分ではないが他人でもない。

(1) Cさんは、春日井市内の運送会社に大型トラックの運転手として勤めています。

 輸送する荷物の積み下ろしの作業はCさん一人では無理ですから、会社のトラックを走らせるときは、必ず助手席に助手が同乗しています。

 そのCさんは、会社から「助手にトラックを運転させてはダメ」という業務命令を受けていました。

(2) ある日のことです。Cさんは助手のDさんとコンビを組んで、岐阜市内へ荷物の積み込みに行きました。荷物の積み込みが終わり、それを愛知県豊橋市にある届け先まで運送することになりました。Dさんも大型トラックの運転免許をもっているので、Aさんは、Dさんにも岐阜市内の地理を覚えてもらおうと考え、荷物の積み込みを済ませて出発するとき、Dさんに運転させて自分は助手席でDさんに運転上の指示をしながら走っていました。

(3) 車が岐阜市内から国道を通って高速道路のインター入り口に向かうためエプロン道路に入る際、Dさんが運転するトラックが左後部のタイヤを縁石に乗り上げてしまいました。その衝撃でCさんは、首が大きく右に揺れて、頚部捻挫の怪我をしました。

(4) Cさんは、運転していたDさんと雇い主の会社に対し損害賠償を請求しました。しかし、裁判ではCさんの請求は認められませんでした。Dさんの運転で事故が起こり、助手席のCさんが怪我したのに、損害賠償の請求が通らなかかったのは何故でしょうか?

(5) 自動車損害賠償法(自賠責法)の第3条は「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、その賠償をしなければならない。」と定めています。今回のケースは事故のとき助手席に乗っていたCさんが「他人」に含まれるかどうかが問題になります。

(6) Cさんは、「いつでもDさんに運転の交替を命じたり、Dさんの運転について具体的な指示をすることができる立場にありました」から、自動車の具体的運行に対する支配の程度は、運転していたDさんに優るとも劣らない状態であったため、この場合のCさんは他人ではない、というのが裁判所の判断です。

 言い換えると、Cさんは自分が運転していたときに事故を起こして怪我した者と変わらない、すなわち、「運転していたのは自分ではないが、Cさんの怪我は他人が怪我したとはいえない」ということになります。

4 運転手さん、ありがとう。

 

 春日井市に住んでいるF子さんには、高校へ通う長女がいます。

F子さんは午後になると、最近オープンした大型量販店へ時折バスを利用して買い物に行きます。バスに乗ると、自分が高校生だった故郷でのバス通学を懐かしく思い出します。

(1) 岐阜県の古川(現在は飛騨市古川町)で育ったF子さんは、高校1年生のときから自転車で通学していました。そんなF子さんですが、2年生の秋に下校途中で事故のため左足を骨折しました。そのため、しばらくは自転車に乗ることができず、松葉杖が必要でバスに乗って通学することになりました。

(2) バス通学の初日のことです。松葉杖でゆっくりしか歩けないF子さんは、時間的な余裕をもって早い時間帯のバスに乗りました。バスが学校近くの停留所に近づいたので、F子さんは降車ボタンを押しました。ところがバスは止まる気配がなく、その停留所を通過しました。

(3) 慌てたF子さんが「すみません。降ります。」と運転手に伝えると、そのバスは停留所から200mほど先の校門前でピタリと止まりました。運転手さんは、バスから降りるF子さんに目配せすると、「気を付けて、行ってらっしゃい。」と声をかけてくれました。

(4) F子さんの制服を見て、この高校の生徒だと分かった運転手さんが、松葉杖で通うF子さんの校門前にバスを止めてくれた親切が、F子さんにはとても嬉しくてたまりませんでした。

(5) その後、F子さんのギブスが外れ、松葉杖なしでも歩けるようになるまでの2カ月余り、F子さんが登校するバスから降りる停留所は、本来の位置より200m先の校門前になっていました。

 あれから30年近く経ちますが、F子さんは今でもバスに乗ると、郷里での親切な運転手さんのことを思い出し、「運転手さん、ありがとう。」と感謝しています。

(6) さりげない心遣いや思いやりが、自動車の利用者を温かく励まし、支え、希望の光を差しのべます。自動車をめぐるアレコレの中には、このようなほのぼのとした善意の絆もあります。

5 旭合同法律事務所は、交通事故について経験豊富な弁護士が揃っています。

 交通事故に限りませんが、車をめぐるトラブルが起きたときは、お気軽に旭合同法律事務所にお声掛けください。


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高橋 寛