交通事故

クレジット車両やリース車両の交通事故について、修理費、代車料、買替差額は誰が請求できるのか注意すべきポイントについて解説をします

この記事を書いたのは:木下 敏秀

1 クレジット車両とリース車両は所有者と使用者が分離します

 クレジット車両(ローン契約で購入した所有権留保車両)とリース車両(リース契約をした車両)については、「所有者」は「クレジット会社やリース会社」であり、「使用者」が「クレジット契約の購入者やリース契約のユザー」になります。  

 法的に見れば、所有者と使用者が分離した状態になっています。このような所有者と使用者が分離した状態で物損の交通事故が発生した場合、その請求ができるのは所有者なのか使用者なのかがポイントになります。

2 車両の修理費用についての解説をします

 クレジット車両の修理費用について過去の裁判例では以下のような解釈をして使用者(買主)に損害賠償請求権を認めています。

【東京地裁平成15年3月12日判決】

 買主は、条件成就によって所有権を取得する期待権を有するとともに、当該車両の利用権を有するのであり、毀滅に至らない程度の損傷を受けた場合は、買主ないしその意思に基づいて使用する者が、その利用権を侵害されたことを理由として、実際に支出したか、あるいは支出を予定する修理の賠償を求めることができると解すべきである。

【京都地裁平成24年3月19日判決】

 債権者(売主)に留保された所有権の実体は担保権であり、車の実質的な所有権は買主に帰属すると解することができ、買主は、第三者の不法行為により車を損傷された場合、車に対する完全な支配を回復するため、第三者に対し、不法行為による損害賠償として修理費用相当額を請求できると解すべきである。

 リース車両の修理費用についても過去の裁判例では以下のような解釈をしてユーザーに損害賠償請求権を認めています。

【大阪地裁平成26年11月4日判決】

 リース契約上車両の修理は使用者であるユーザーにおいて行う旨定められており、リース会社が自ら修理することは想定されていなかったこと、実際にユーザーは一定の範囲で既に修理をして費用を拠出し、未だ修理のなされていない部分についても今後修理予定であること等の事情が認められる。

 これに加え、実際に修理がなされればリース会社の損害は概ね補填されること、現時点に至るまでリース会社側から修理費用を損害として請求するような動きがみられないこと等を総合すると、車両が毀損した時の修理費用分の損害賠償請求権は使用者であるユーザーに帰属すると考えるのが、ユーザーとリース会社との間のリース契約の合理的解釈として相当なものと認められる。

3 車両の代車使用料についての解説をします

 クレジット車両の代車使用料について過去の裁判例では以下のような解釈をして使用者(買主)に損害賠償請求権を認めています。

【東京地裁平成15年3月12日判決】

 代車使用料は、もっぱら使用利益に関する補償であるから、所有権を留保している売主ではなく、車両を使用する買主ないしはその意思に基づいて使用する者が、その利用権を侵害されたことを理由として、実際に支出したか、あるいは支出を予定する代車使用料の賠償を求めることができると解すべきである。

 リース車両の代車使用料についても過去の裁判例では以下のような解釈をしてユーザーに損害賠償請求権を認めています。

【東京地裁平成25年8月7日】

 ユーザーは、車の修理が完了する前に、代車を使用する必要から、代車の有償提供を受け、現実にこれを使用し、代車料の支払債務を負担したものであり、その支払が現実に見込まれない事情は認められないから、代車費用の相当額を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

4 車両が全損の場合の買替差額賠償請求についての解説をします。これが一番難しい問題であり、注意するポイントが多いです。

 車両の「全損」には、物理的に修理不能になる「物理的全損」と経済的に修理不能となる「経済的全損」(修理可能でも修理費用等が車両の時価を超えるもの)があります。

 一般論として、このような「全損」のときに被害車両の価格と売却代金との差額の損害を賠償請求ができます(最高裁昭和49年4月15日判決)。

 クレジット車両は、「物理的全損」の場合は使用者(買主)の買替差額賠償請求が否定的に解釈されており、「経済的全損」の場合には肯定している裁判例があります。

 これは、クレジット車両が交通事故によって「物理的全損」になった場合、車両の交換価値が完全に失われたので、交換価値を把握する所有者に損害が生じると考えられ、交換価値を把握しない使用者は、所有権留保特約付売買の買主を含め、損害賠償を求めることはできないと解釈されています(川原田貴弘裁判官の講演録)。

 他方、「経済的全損」の場合には、横浜地裁平成25年10月17日判決や京都地裁平成26年8月26日判決のように所有権留保特約付車両売買契約の買主に車両時価額の賠償を認めています。

 リース車両についても「物理的全損」の場合にはユーザーの買替差額賠償請求を否定し、「経済的全損」の場合には肯定する解釈がされています(新日本法規出版発行「物損交通事故解決の実務」の見解)

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木下 敏秀