消費者問題

国民健康保険に加入していない世帯主に納税通知書が届きました。

この記事を書いたのは:高橋 寛

 小牧市に住んでいるAさんは、名古屋の会社に勤務し職場の健康保険に加入しています。

 長男のBさんは、高校を卒業し自営で焼き鳥屋を始めたので、Aさんの扶養者家族ではなくなりました。そのため、Aさんは勤務先の会社に申し出て、Bさんを職場の健康保険から抜いて、小牧市の国民健康保険に加入させる手続きをしました。

 すると、小牧市からAさん宛に、国民健康保険税(保険料)を納付せよという納税通知書が届きました。

 Aさん自身は国民健康保険に加入していないのに、国民健康保険税の支払を求める通知書がAさん宛にきたのはなぜでしょうか?

 Aさんとしては、Bさんの自立のためにも国民健康保険税の支払をBさん本人が納付するように切り替えたいと考えています。

 そこで今回は、国民健康保険の加入や保険料納付の仕組みや、世帯分離について解説します。

1 国民健康保険は、法定強制の医療保険です。

(1) 国民健康保険は、主に市町村が運営しており、職場の被用者保険の加入者とともに、みなさんが病気になったり怪我をしたとき、医療費などの経済的負担を軽くし、安心して医療機関を利用できることを目的とした制度です。

(2) 次に当てはまる人以外は、性別や年齢を問わず、すべての人が国民健康保険に加入する必要があります。

① 被用者保険(例えば、勤務先の健康保険、共済組合、船員保険など)に加入している人及びその被扶養者。

② 生活保護を受けている人

③ 外国籍で日本での滞在期間が1年未満の人

④ 75歳(一定の障がいがある人は65歳)以上で、後期高齢者医療保険に加入している人。

2 国民健康保険の加入、保険料の納付は、世帯ごとになります。

(1) 国民健康保険の加入者は、世帯主やその家族を問わず、一人ひとりが被保険者です。

 Aさんのお宅(世帯)では、長男のBさんが国民健康保険の加入者で、それ以外の家族は、被用者保険(職場の健康保険)の被保険者(加入者本人及び被扶養者)です。

(2) 国民健康保険への加入は、世帯ごとになります。

 そのため、世帯主のAさんが長男Bさんの国保加入手続きをしました。

(3) Aさん自身は国民健康保険に加入していませんが、世帯構成員の長男Bさんが国保に加入しています。

 そのため、国保の保険料(国民健康保険税)は、Aさんが納付しなければいけません。

(4) 小牧市役所からAさん宛に国民健康保険税の納付通知書が送られてきたのは、国民健康保険税の加入と保険料納付が上に述べた仕組みになっているからです。

3 被用者保険の被扶養者から抜けて国民健康保険に加入した長男を、保険料納付者に切り替えるには、世帯分離の方法があります。

(1) 世帯分離は、同居していながら住民票の世帯を分けることです。

 家計が同じ家族が同居している場合、世帯分離は本来好ま しいとはいえません。

 しかし、今回のAさんが長男Bさんの自立を促すためとして、国保の保険料をBさん本人が納付するように望んでおられます。

 そこで、世帯分離の一般的なメリットとデメリットを解説し、世帯分離の手続きを実行すべきかどうかの参考にしていただきたいと思います。

(2) 世帯分離のメリットは、次のとおりです。

① 介護保険の「利用者負担」が高額になったときに利用できる制度として「高額介護サービス費制度」というのがあります。

 高額介護サービス費は、その世帯の所得などに応じて、1か月に支払う介護保険の自己負担の上限が定められています。

 その上限額以上に負担した場合は申請すると、上限額を超えた金額が後から利用者に返還される仕組みになっています。

 自己負担の上限額は所得によって異なり、所得が低いほど上限額も低くなります。

 高額介護サービス費とか高額介護・高額医療合算制度は、同じ世帯でかかった介護費や医療の費用を合算します。

 そのため、世帯分離をして高齢者世帯の所得が下がれば、それに応じて自己負担額の上限額は低くなりますから、介護費用の節約になります。

(3) 世帯分離のデメリットは、次のとおりです。

① 国民健康保険に加入している世帯が分離すると、各世帯主がそれぞれ国保の保険料を納付することになります。

 そのため、保険料の負担額がかえって増える場合もあります。

 今回のAさんの場合は、差しあたって国保の加入者は長男Bさん一人です。他の世帯構成員は国保ではなく、被用者保険の加入者ですから、国保の保険料が増えることはありません。

 しかし、将来Aさんが定年などで会社を退職し国保に加入したときは、世帯主ごとに保険料を納付することになり、家族全体の保険料が増える場合があり得ます。

② 住民票では世帯が別々になっているため、住民票や印鑑証明の交付を申請するときの行政手続きを、本人以外の家族が行う際、委任状が必要になります。

 その委任状は、原則として本人に書いてもらう必要があります。本人の心身の状態や遠隔地に赴任中など、直ぐには書けない場合も予想され、思わぬ手間と時間がかかります。

 世帯が同じであれば、これらの行政手続きに委任状は必要ないので、スムーズに行政サービスを受けることができます。

(4) 世帯分離の手続きは、市区町村の窓口に「世帯変更届」を提出して行います。

4 各種の行政手続きや不服申し立ては、スタッフの揃っている旭合同法律事務所にご相談ください。


この記事を書いたのは:
高橋 寛