京王線放火殺人未遂事件で被害を受けた人々への償いの仕組み!!
この記事を書いたのは:高橋 寛
1 犯罪によって被害を受けた人や遺族への経済的な償いは、どのような仕組みになっているのでしょうか。
平成3年10月31日午後8時ころ、京王線の電車内で刃物を持った男が無差別に乗客を刺した挙句、オイルを撒き散らして放火するという「京王線放火殺人未遂事件」が起きました。
被害を受けた人に対する「犯罪被害者等給付金」制度の仕組みを解説します。
(1) 犯罪被害者等給付金の制度は、殺人など故意による犯罪によって死亡した 被害者の遺族や、重傷もしくは障害という重大な被害を受けた人に対して、国が給付金を支給する制度です。
交通事故など過失による犯罪で死亡・重傷を受けた遺族や被害者には、この給付金は適用されません。交通事故については自動車損害賠償保険法(自賠責保険)が適用されます。
この犯罪被害者等給付金には、「遺族給付金」、「重傷病給付金」、「障害給付金」の3種類があります。
(2) 遺族給付金は、故意による犯罪で亡くなられた被害者の遺族に支給されます。
遺族給付金の支給額は、亡くなられた人の収入と生計を維持する関係にある遺族の人数に応じて算出される金額になります。
1 生計維持関係遺族がいる場合は、上限2964万5000円~下限872万1000円です。なお、生計維持関係遺族に8歳未満の遺児がいる場合は、その人数や年齢に応じて上限額に加算されます。
Ⅱ 上記以外の場合は、上限1210万円~下限320万円です。
※ 被害者が死亡前に療養を必要としていた場合は、負傷又は疾病から3年間の保険診療による医療費の自己負担相当額と休業損害を考慮した場合の合計額が加算されます。
※ 第一順位の遺族が二人以上いる場合は、その人数で除した額が一人当たりの支給額になります。
遺族給付金の支給を受けることができる人は、亡くなられた被害者の第一順位の遺族です。
その順位は次のとおりです。※ 法定相続の順位とは少し違うので、ご注意ください。
ⅰ ① 配偶者 (事実上の婚姻関係と同様の人を含みます。)
ⅱ 亡くなった被害者の収入によって生計を維持していた、被害者の
② 子、 ③ 父母、 ④ 孫、 ➄ 祖父母、 ➅ 兄弟姉妹
ⅲ 上記ⅱに該当しない、被害者の
⑦ 子、 ⑧ 父母、 ⑨ 孫、 ➉ 祖父母、 ⑪ 兄弟姉妹
※ 〇内の数字は、支給を受けることができる遺族の順位です。例えば、亡くなった被害者に①の配偶者も②の子もいない場合は、③の父母が第一順位になります。
(3) 重傷病給付金は、故意による犯罪で重傷を負った被害者に支給されます。
重傷病給付金の支給を受けることができる人は、故意の犯罪によって、重傷病を負った被害者本人です。
この場合の重傷病は、療養の期間が1か月以上で、かつ、入院3日以上を要する負傷又は疾病をいいます。
なお、PTSDなどの精神疾患に罹患した場合は、療養の期間が1か月以上で、かつ、その症状の程度が3日以上労務に服することができない程度であることが必要です。
重傷病給付金の額は、負傷又は疾病から3年間の保険診療による医療費の自己負担相当額と休業損害を考慮した額を合算した額で、上限は120万円です。
(4) 障害給付金は、故意による犯罪で障害が残った被害者本人に支給されます。
障害給付金の支給受けることができる人は、負傷又は疾病が治ったとき(症状が固定したとき)の身体上の障害(後遺障害)で、国家公安委員会の定める障害等級のいずれかに該当する被害者本人です。
この障害には精神疾患によるものも含まれます。等級には、第1級から第14級までの区分があります。
障害給付金の額は、被害者の収入と残った障害(後遺障害)の程度に応じた額が支給されます。
Ⅰ 重度の障害が残った場合は、上限3974万4000円~下限1056万円の範囲の額です。
重度の障害は、障害等級が第1級~第3級に該当する障害のことです。
Ⅱ 上記Ⅰ以外の障害(第4級~第14級)が残った場合は、上限1269万6000円~下限18万円の範囲の額です。
2 給付金の対象となる犯罪は、日本国内又は日本船舶若しくは日本航空機内で、故意に行われた人の生命・身体を害する行為です。
故意による犯罪が対象ですから、交通事故など過失によって生命が奪われたり身体に傷害を負った被害者には、この給付金制度は適用されません。
また、外国で被害に遭った場合も、この給付金制度は適用されません。なお、日本船舶や日本航空機内は、日本国内と同様に扱われますから、この給付金制度が適用されます。
3 給付金の支給を受けることができる被害者又は遺族は、日本国籍を有する人又は日本国内に住所を有する人です。
日本国籍を有する人であれば、外国に住所がある人でも犯罪被害者等給付金の支給を受けることができます。
外国籍の人でも、対象となる犯罪行為が行われた時に日本国内に住所を有していた人であれば、この給付金の支給を受けることができます。
4 故意による犯罪によって重い被害を受けても、給付金の全部又は一部が支給されない場合があります。
(1) 故意による犯罪によって生命や身体に重い被害を受けても、次のような場合は、給付金の一部又は全部が支給されません。
① 被害者と加害者との間に、夫婦関係や親子関係などの親族関係があったとき。
② 被害者が犯罪行為を誘発したとき又は容認したとき。
③ 被害者が集団的に又は常習的に暴力的不法行為を行うおそれがある組織に属していたとき。
④ 犯罪被害について、被害者に不注意又は不適切な行為があったとき。
➄ 被害者と加害者との関係(金銭関係や男女間系のトラブルなど)、その他の事情からみて、給付金を支給することが社会常識に照らし適切でないと認められるとき。
(2) 親族間の犯罪でも、次のような場合には、給付金の一部又は全部が支給されます。
① 犯罪行為が行われたとき、既に親族関係が破綻していたと認められる場合。
② 犯罪行為が行われたとき、18歳未満であった人が犯罪被害者又は第一順位の遺族となる場合。
5 加害者から損害賠償を受けた場合の犯罪被害者給付金との関係
示談などによって加害者側から損害賠償を受けた場合、国からの給付金の支給を受けることができるかどうかは、状況によって違います。
(1) 加害者側から損害賠償を受けたとき、受け取った賠償金額が給付金の額を上回っている場合は、給付金は支給されません。
(2) 加害者側から受け取った損害賠償の額が給付金の額を下回るときは、給付金の額から侵害賠償額を差し引いて、その不足分が支給されます。
(3) 示談や和解などの際に、損害賠償請求権を放棄したときは、給付金は支給されません。
6 犯罪被害者等給付金の申請・請求・支給までの流れは次のとおりです。
(1) 支給裁定申請
申請する人の住所を管轄する公安委員会あての申請書を、申請する人の地元の警察署又は警察本部に提出する。
申請書に添付する書類は、給付金の種類によって違います。詳しくは地元の警察署又は警察本部に問い合わせれば、教えてもらえます。
(2) 支給裁定申請書の提出期限
犯罪行為による死亡、重傷病又は障害の発生を知った日から2年を経過したとき、又は死亡、重傷病又は障害が発生した日から7年を経過すると、申請することができません。
(3) 公安委員会による裁定
申請が受理されると、当該都道府県公安委員会が裁定のための調査を行います。
その調査結果を踏まえて、公安員会が裁定します。裁定は「支給」か「不支給」に分かれます。
申請した人に公安委員会から「支給裁定通知」か「不支給裁定通知」のいずれかが書面で届けられます。
(4) 給付金請求
「給付裁定通知」を受け取った人は、公安委員会あてに「給付金請求書」を提出します。請求書の受付は地元の警察署又は警察本部で行っています。
給付裁定通知を受け取ってから2年以内に請求しないと支給を受ける権利が消滅します。
(5) 給付金の支給
請求すると、指定の口座に給付金が振り込まれてきます。これで一連の手続きが終了です。
(6) 審査請求
「不支給裁定通知」を受け取った人は、裁定内容に不服があれば、通知を受け取った日の翌日から3か月以内に、国家公安委員会に対して審査請求をすることができます。
国家公安委員会の審査結果、不支給裁定が覆されて支給の審査が決まった場合は、改めて支給裁定の通知が送られてきます。そこから先は、上記(4)と同じです。
7 故意による犯罪で死亡した被害者のご遺族、重い被害を受けた方は、刑事事件の経験が豊富な弁護士は揃っている旭合同法律事務所へ、早めにご相談ください。
旭合同法律事務所では、犯罪被害者等給付金の申請・請求手続きはもとより、加害者の刑事裁判における被害者参加の支援、加害者に対する損害賠償請求など幅広く、一貫した弁護活動によって、被害者及びご遺族の権利をお守りさせていただきます。お気軽に声をお掛けください。
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高橋 寛