スタートした法務局の遺言書保管制に5つのメリット。
この記事を書いたのは:高橋 寛
遺産をめぐる親族間の紛争を防止するため交通整理をしておく遺言は、親族など関係者に対する愛情を形として留めおくものです。遺言の作成は、遺言者本人が全文・日付・氏名を自書して(ただし、目録はパソコン等でも可)作成する「自筆証書遺言」と、公証人に遺言内容を口授して2名以上の証人が立ち会いの上、公証人によって作成される「公正証書遺言」という2つの方法があります。
2020年7月にスタートした「法務局による遺言書保管制度」は、自筆証書遺言を対象としたもので、次に紹介する5つのメリットがあります。
ポイント① メリットその1は改ざんを防げることです。
(1) 自筆証書遺言は、遺言者の死亡後に発見されなかったり、遺言内容が不都合な一部の相続人などによって廃棄されたり、改ざんされると、遺言者の遺志は実現されません。これが問題点です。
(2) 自筆証書遺言の問題点を解消する方法として創設されたのが、法務局による遺言書保管制度です。遺言書が他の者によって廃棄されたり改ざんされるのを防ぐことができる点が、この制度のメリットその1です。
(3) 遺言書の保管を申請するには、ア)遺言者の住所地、イ)遺言者の本籍地、ウ)遺言者が所有する不動産の所在地、のいずれかを管轄する遺言書保管所(法務局)に電話等で予約した上で、遺言者本人が、遺言書・申請書・本籍が記載されている住民票写し・運転免許証などの本人確認資料を持参して申請します。ただし、既に他の遺言書を法務局に預けてある場合は、その法務局に申請することになります。
ポイント② メリットその2は費用が安いことです。
(1) 公正証書遺言は、法律専門家の公証人から遺言内容についてアドバイスしてもらえる上、遺言書原本が公証役場で安全に保管されますが、遺言内容に応じてそれなりの手数料がかかります。
(2) 法務局による遺言書保管制度の手数料は、遺言書1通につき3900円です。公正証書遺言に比べると格安の費用で済む点が、遺言書保管制度のメリットその2です。
ポイント③ 保管中に内容を閲覧したり、撤回できることがメリットその3です。
(1) 遺言者は、遺言書保管所になっている法務局であれば全国どこの法務局でも遺言書の内容を確認できます。確認の方法は、ア)モニターによる画像での閲覧、イ)遺言書原本の閲覧です。ただし、原本の閲覧は遺言書が保管されいる法務局でのみ閲覧が可能です。
(2) 遺言者は、法務局に保管されている遺言書について、保管の申請を撤回して、遺言書原本を返還してもらうことができます。この撤回ができるのは遺言者本人のみです。撤回の提出先は遺言書が保管されている務局に限られます。
(3) 保管申請を撤回して遺言書の返還を受けても、遺言の効力には何の影響もありません。遺言の内容を変更したいときは、新しい遺言書を作成し、以前の遺言書を破棄しておけば余分なトラブルを防ぐことができます。改めて、新しい遺言書を法務局で保管してもらえば安心です。
(4) 遺言者は、遺言書の保管を申請した後に、氏名・住所などを変更したときは、法務局に変更内容を届け出る必要があります。この変更届は、全国どこの遺言書保管所でもできますし、郵送でもできます。変更届ができるのは、遺言者本人はもとより親権者や成年後見人等の法定代理人です。
ポイント④ メリットその4は検認手続きが不要なことです。
(1) 自筆証書遺言は、遺言者が死亡した後に、相続人等が家庭裁判所に申立てて検認を受ける必要があります。検認の申立てがあると、裁判所は相続人全員に対し検認期日を通知し、その期日に出頭した相続人の立ち会いの上で、遺言書が開封されて、遺言書の存在などが確認されます。
(2) 法務局で保管される遺言書は、裁判所での検認手続きが必要ありません。この点がメリットその4です。
(3) 遺言者が死亡した後であれば、相続人・受遺者・遺言執行者等は、遺言書保管所となっている法務局であれば全国どこの法務局でも、自分を相続人・受遺者・遺言執行者等とする遺言書が保管されているか否かを確認し、遺言書保管事実証明書の交付を申請することができます。
(4) 遺言書が法務局に預けられていることを確認した後は、次に遺言情報証明書の交付を申請して、保管されている遺言書の内容を証明する書類を取得することができます。その手数料は証明書1通につき1400円です。
(5) 相続人等が証明書の交付を受けると、法務局はそれ以外の相続人等に対して、遺言書を保管している旨を書面で通知します。
(6) 法務局から交付を受けた遺言情報証明書は、これによって相続不動産の所有権移転登記や金融機関での名義変更などを進めることができます。
ポイント⑤ メリットその5は法務局に預けることによる安心感です。
(1) 遺言書が実際に使われるのは、遺言者が死亡した後ですから何年先か分かりません。その間自宅で保管していると、どこに仕舞ってあるか分からなくなったり、転居の際に紛失する場合もあります。
(2) 法務局に遺言書の保管を申請すれば、法務局が遺言書を預かってくれますから安心できます。しかも、預け先が民間の企業ではなく国の機関ですから倒産するおそれはありません。この安心感がメリットその5です。
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高橋 寛