その他

刑事法制に、間もなく大幅な転換期が訪れます。

この記事を書いたのは:高橋 寛

令和4年6月に改正刑法が成立し、現行の懲役刑と禁固刑を一本化して「拘禁刑」を創設することが決まっていましたが、令和5年11月7日の閣議で、拘禁刑導入の施行日を令和7年6月1日とする政令を決定しました。また、保釈中の被告人が、裁判所から召還を受け公判期日に出頭しなかった場合の「不出頭罪」や、裁判所の許可を得ないで制限住居を定められた期間を超えて離れた場合に「制限住居離脱罪」を新設する改正刑事訴訟法の施行日を令和5年11月15日とする政令も決定しました。

 令和4年6月に改正刑法が成立し、現行の懲役刑と禁固刑を一本化して「拘禁刑」を創設することが決まっていました。政府は、令和5年11月7日の閣議で、拘禁刑導入の施行日を令和7年6月1日とする政令を決定しました。

 この改正刑法は、従前の刑法が定められた明治40年(1907年)以来、初めて刑罰の種類が変更される大幅な転換期を迎えたことになります。

 また、令和5年5月10日に改正刑事訴訟法などが成立し、保釈中の被告人が裁判所から召還を受けた公判期日に出頭しなかった場合の「不出頭罪」や、裁判所の許可を得ないで、定められた期間を超えて制限住居を離れた場合の「制限住居離脱罪」などを創設することも決まっていました。

 政府は令和5年11月7日の閣議で、不出頭罪や制限住居離脱罪を新設する改正刑事訴訟法の施行日を令和5年11月15日とする政令を決定しました。

第1 懲役刑と禁固刑を一体化して拘禁刑に

 

1 懲役刑

(1) 懲役刑が執行される場所

 懲役刑は、刑務所などの刑事施設に拘置(収容し身柄を拘束)して、所定の作業を行わせる刑罰です(改正前の刑法12条2項)。懲役の受刑者が行う作業は、全国に75ある刑事施設(刑務所・少年刑務所・拘置所)で実施され、刑務作業とも呼ばれています。 

(2) 刑務作業の目的

 刑務作業は、刑法に定められている懲役刑を執行するため、決められた作業を行わせるとともに、改善更生と円滑な社会復帰を図るための受刑者処遇の一つです。

 更に、刑事施設の所内で規則正しい生活を送らせることによって、受刑者の健康を維持し、かつ、勤労意欲を養わせて共同生活での自分の役割とか責任を自覚させ、職業的知識と技能を取得させることにより、円滑な社会復帰を促進することを目的としています。

(3) 刑務作業の実施状況

 刑務作業に従事する人は、その殆どが懲役の受刑者です。その他に、罰金などを収めることが出来ない人が罰金などを収める代わりに就業する労役場留置者とか、就業の義務はないが申し出によって就業することができる禁固刑の受刑者及び拘留受刑者です。

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(4) 刑務作業の種類

 受刑者は、木工・洋裁・金属加工・皮革加工などの業種から、各人の適正などに応じて職種が指定され就業します。変わった職種としては、受刑前に理髪師として働いていた特殊技能者の場合は、温和な性格であれば刑事施設内の理髪師として、刑事施設の職員や受刑者の散髪業務に従事する例もあります。

 刑務作業は、その形態によって、生産作業・社会貢献作業・職業訓練・自営作業の四つに分類されています。

(A) 生産作業

物品を製作する作業及び労務を提供する作業で、次の三つに区分されています。

  (あ)制作作業

   精算に使う原材料の全部又は一部が国の物品である作業。

  (い)提供作業

 精算に使う原材料の全部が契約の相手方から提供された物品である作業(例えば、電気炊飯器にプラスチック製の取っ手(耳)を取り付ける作業で、電気炊飯器及びプラスチック製の取っ手の全部が発注者の民間業者から提供される場合)、又は国が被収容者の労務のみを提供して行う作業(例えば、契約農家の農地に受刑者が引率されて赴き農作業をする場合)。

 そのため、刑事施設の職員には、民間企業から作業の発注をしてもらい契約を取り付けるための営業活動に従事する担当者もおります。

  (う) 事業部作業

 生産に使う原材料の全部又は一部が矯正協会刑務作業協力事業部の物品である作業。公益財団法人矯正協会刑務作業協力事業部は、刑事施設での作業の安定的運営を支えるため、刑務作業に必要な原材料の提供などを行っています。

(B) 社会貢献作業

 労務を提供する作業であって、社会に貢献していることを受刑者が実感することによって、その改善・更生と円滑な社会復帰を促すことに役立つと、刑事施設の長が特に認めた者がこの作業に従事します。例えば、通学路などの除雪作業や垣根とか、街路樹など植生保存のための除草作業が行われています。

(C)職業訓練

 出所後の就労が円滑に進むようにと、受刑者に職業に関する免許とか資格を取得させ、又は職業に必要な知識及び技能を習得させることを目的に、職業訓練が実施されています。

 受刑者の再犯を防止し、改善・更生を図るためには重要な施策の一つです。

 刑事施設での職業訓練は、溶接科、建設機械科、フォークリフト運転科、情報処理技術科、電気通信設備科、理容科、美容科、介護福祉科など50種目が実施されています。

(D) 自営作業

 炊事、洗濯など受刑者が矯正施設で生活するに際し必要な作業が自営作業です。施設によっては、建物の簡単な修理や畳替えを行っている所もあります。

(5) 外部通勤作業

 収容生活の中で一定の要件を満たしている受刑者の場合は、刑事施設の職員の同行なしに施設の外の民間事業所に通勤して作業に従事させたり、職業訓練を受講させたりしています。

 外部通勤作業は、受刑者の自律心や責任感に基づいて、社会的な職業集団での自分の地位や役割を認識させて、一般社会における人間関係の在り方を学ばせるるとともに、社会的視野の拡大を可能にするなど、受刑者が自主的にその行動を規制することにより、円滑な社会復帰を図るための制度です。

     

(6) 作業収入

 国が民間企業などと作業契約を結び、受刑者の労務を提供によって得る作業収入は、全て国庫に帰属します。ちなみに令和2年度の刑務所作業収入は、約28億円でした。

(7) 作業時間

 受刑者の作業時間は、他の矯正処遇時間と合わせて、1日8時間を超えない時間で就業することになっています。

(8) 作業報奨金

 刑務作業に従事した受刑者には、出所時の生活資金の扶助という目的のため作業報奨金が支給されます。支給は、原則として釈放の際、本人に対して渡されます。

 しかし、釈放前でも刑事施設内で使う物品の購入や家族の生計の援助などに使用することも認められています。参考までに紹介すると、令和3年度は1カ月当たりの平均法賞金額は、一人当たり約5,516円です。 

(9) 手当金

 受刑者が刑務作業の際、不測の事故などで負傷し、身体に後遺症が残った場合などは、その程度に応じて手当金が支給されます。  

2 禁固刑

 本来は、懲役刑の受刑者は刑事施設に収容されて刑務作業に従事するしなければならないにに対し、禁固刑の受刑者は刑事施設に収容されて身柄を拘束されるのみで、刑務作業を行わなくてもよい(改正前の刑法13条2項)のが基本です。

 そして、禁固刑受刑者から刑務作業を行いたいという申し出があった場合は、刑事施設の長が刑務作業を許すことができます(刑事収容施設被収容者処遇法93条・誓願作業)。

 しかし、現実には、多くの禁固刑受刑者が誓願作業を申し出て、これに従事しています。そして、誓願作業を許された者は、正当な理由がなければ刑務作業を辞めることができません。

 そのため、現状は、懲役と禁固の刑の執行状況は実質的に同じであり、二つの刑罰を分けて規定している改正前の刑法は意味が薄れています。また、禁固刑を科される犯罪の殆どが過失犯であることも、禁固刑を設けている意味を薄れさせています。

3 拘禁刑

   懲役刑と禁固刑が拘禁刑に一本化されると、次のような変化が発生します。

   

(1) 刑務作業が義務でなくなる。

 これまでは、懲役刑の受刑者には刑務作業が義務付けられていました(改正前の刑法12条2項)。しかし、改正ごの刑法では懲役刑が無くなりますから、受刑者が刑務作業を義務付けられるのは、刑事施設が、本人の改善更生のために刑務作業が必要と判断した時に限られます。

(2) 再犯防止につながる柔軟な処遇が可能になる

 個々の受刑者の性格、価値観、境遇、犯罪歴、受刑態度などは様々です。拘禁刑の導入は、このような受刑者の特質に応じて、収容・拘束にとどめて置くのか、さらに刑務作業を義務付けるのか、また、矯正教育(指導)を行うのか、という具合に、処遇に変化と柔軟性をもたせることができます。

(3) 懲役と禁固が廃止されることによって多くの犯罪の法定刑が変わる。

 改正前の刑法が定める犯罪のうち、法定刑に禁固が含まれているのは、内乱罪(刑法77条)や公務執行妨害罪(刑法95条)など十数種類です。これに対し、ほとんどの刑法犯は法定刑に懲役が含まれています。

 いずれにしても、禁固と懲役が無くなるので、ほとんどの刑法犯は法定刑が変わります。また、暴力行為等処罰法などの特別刑法や罰則を定めている都道府県条例も改正が必要になります。そのため、改正刑法の成立から施行まである程度の年月がおいてあります。

(4) 刑事施設での改善更生プログラムの策定と人材確保が必要になる。

 受刑者の改善更生のためには、薬物犯罪や性犯罪の改善プログラム、若年受刑者への学力向上支援、高齢受刑者への福祉支援などの改善更生プログラムの策定が必要になります。

 こうしたプログラムを策定し、実施するためには、医療、心理、教育、福祉などの関連分野に精通している人材確保が欠かせません。こうした点からも、今回の刑法改正は、刑事施設における処遇面にも大幅な転換期を迎えることになります。

第2 不出頭罪と制限住居離脱罪の創設

 令和元年12月に、保釈中の日産自動車元会長カルロス・ゴーン被告が海外逃亡する事件が発生し、保釈中の被告人逃亡を防止するための法整備が進められていました。

 その結果、令和5年5月10日、改正刑事訴訟法などが成立し、保釈された被告人らの逃亡を防止するために衛星利用測位システム(GPS)搭載の端末装着を命令できる制度が導入され、保釈中の被告人の「不出頭罪」や「制限住居離脱罪」が創設されました。

1 不出頭罪

 保釈中の被告人が、召喚された公判期日に正当な理由が無いのに出頭しなかった場合は、不出頭罪が成立します。不出頭罪の法定刑は、2年以下の拘禁刑に処せられます。

 この不出頭罪を定めた改正刑事訴訟法は、令和5年11月15日に施行されます。

2 制限住居離脱罪

 保釈中の被告人が裁判所の許可を得ないで、保釈許可決定で定められた期間を超えて制限住居を離れた場合は、制限住居離脱罪が成立します。

 制限住居離脱罪の法定刑は2年以下の拘禁刑です。この制限住居離脱罪を定めた改正刑事訴訟法も、令和5年11月15日に施行されます。

  

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