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「口座の売却・譲渡は犯罪です」

この記事を書いたのは:松波英二

「使っていない口座を売れば数万円になる」「口座を貸すだけで報酬がもらえる」——SNSやマッチングアプリ、街中の勧誘などで、こうした甘い言葉を目にしたことはないでしょうか。

しかし、預貯金口座の売却・譲渡は重大な犯罪行為であり、特殊詐欺やマネー・ローンダリング(資金洗浄)の温床として悪用されています。安易に応じてしまうと、金銭的なトラブルにとどまらず、刑事罰の対象となり、前科がついてしまう可能性があります。今回は、口座売却に伴う民事上・刑事上の責任と、被害・加害の両面から巻き込まれないための注意点を解説します。

なお、令和8年(2026年)の法改正により、口座売買に対する罰則は大幅に引き上げられています。以下では改正後の内容に基づいて説明します。

1.民事上の責任・不利益

(1)不法行為に基づく損害賠償責任

譲渡した口座が特殊詐欺の振込先として使われた場合、その口座名義人は、詐欺の実行者と共同して被害を発生させた者として、民法709条(不法行為による損害賠償)に基づき、被害者から損害賠償請求を受ける可能性があります。

民法709条

「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」

「自分は騙されただけで、詐欺には加担していない」と考えていても、口座を提供した行為自体が詐欺グループへの加担(幇助)と評価され、共同不法行為(民法719条)として、最悪のケースでは詐欺被害額全額について連帯して賠償責任を負わされる裁判例も見られます。

(2)預金契約の解除・口座凍結

口座の売買・譲渡が金融機関に発覚した場合、その口座だけでなく、同一名義人が保有する全ての口座が利用停止・強制解約の対象となるのが実務上の一般的な取扱いです。さらに、全国の金融機関で共有される情報をもとに、他の金融機関での新規口座開設ができなくなるおそれもあります。口座の作成が難しいと、給与の受取や公共料金の引き落としなど、日常生活に深刻な支障を及ぼします。

(3)特定被害回復給付金制度による財産の没収

特定被害回復給付金制度により、警察が把握した「犯罪利用防止措置用口座」に移転された財産で返還請求権が消滅したものは、被害者への給付金の原資に充てられます。口座の譲渡人が対価として得た金銭であっても、被害回復の名目で回収され得る点に留意が必要です。

2.刑事上の責任

(1)犯罪収益移転防止法違反

口座(通帳・キャッシュカード・インターネットバンキングのID・パスワード等を含みます)を譲り渡す行為、譲り受ける行為はいずれも、犯罪収益移転防止法により禁止されています(同法第28条)。有償・無償を問わず、また「自分名義の口座を売る側」「他人名義の口座を買う側」の双方が処罰対象です。

令和8年7月10日施行の改正により、法定刑は次のとおり引き上げられました。

  • 個人が行った場合:3年以下の拘禁刑又は500万円以下の罰金(改正前は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)
  • 業として行った場合(反復・営利目的等):5年以下の拘禁刑又は1,000万円以下の罰金

(2)詐欺罪(刑法246条)

他人に譲り渡す目的を隠して金融機関に口座開設を申し込んだ場合、金融機関の担当者を欺いて口座を開設させたものとして、詐欺罪が成立し得ます。

刑法246条1項

「人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。」

刑法246条2項

「前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。」

口座開設により通帳やキャッシュカードを得たとして詐欺罪の成立を認めるのが実務の考え方であり、ネットバンキング完結型のものであったとしても、詐欺罪が成立する可能性があります。法定刑は10年以下の懲役と重いです。

(3)組織的犯罪処罰法(犯罪収益等隠匿罪)

譲り渡した口座が詐欺被害金の入金・移転に用いられ、その事情を認識しながら関与を続けた場合には、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(組織的犯罪処罰法)第10条の犯罪収益等隠匿罪(5年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はこれらの併科)に問われる可能性もあります。

(4)「送金バイト」に対する新設罰則

令和8年改正で新たに設けられた規定により、SNS等で募集される、他人名義の口座に振り込まれた金銭を別口座へ移動させる、いわゆる「送金バイト」も明確に処罰対象となりました。「言われたとおりに送金しただけ」という認識であっても、実行役として刑事責任を問われる可能性があります。

3. 巻き込まれないために

  • 「口座を買います」「口座を貸してください」という勧誘は、理由の如何を問わず全て犯罪の誘いであるとの疑いの目を持つようにしてください。高額な謝礼や即日入金をうたう案件ほど犯罪の可能性が高いです。
  • 家族・知人名義の口座であっても、他人に譲渡・貸与すれば同様に処罰対象となります。「自分の口座ではないから大丈夫」ということはありません。
  • 使っていない口座は売却せずに、銀行で解約手続をとってください。
  • 「荷物の受け取り」「送金の取次ぎ」といった名目のアルバイトでも、実態が口座・カードの譲渡や送金バイトに当たる場合があります。仕事の内容が曖昧なまま個人情報や通帳・カードを渡すことは避けてください。
  • 既に口座を譲渡してしまった、あるいは勧誘に応じてカード等を送付してしまった場合は、被害の拡大や刑事責任の程度に関わる問題ですので、速やかに警察に相談するとともに、早期に弁護士にご相談ください。自主的な申告や早期の対応が、その後の処分に有利に働くこともあります。

口座の売買・譲渡をめぐる問題は、ご自身が「被害者」の立場に立たされるだけでなく、知らぬ間に「加害者」にもなり得る、身近でありながら重大なリスクをはらむ問題です。周囲に不安を感じられている方がいらっしゃるなどの場合には、旭合同法律事務所までお気軽にご相談ください。


この記事を書いたのは:
松波英二