「業務委託でも給料扱い!?」裁判所が差し押さえ制限を認めた最新判例を解説!
この記事を書いたのは:前田 大樹
■事件の概要
本件は、大阪地方裁判所が令和6年7月5日に出した決定(令6(ヲ)9088号)であり、業務委託契約に基づく報酬債権について、民事執行法153条1項に基づき差押禁止債権の範囲変更が認められた事案です。
申立人(以下「X」)は、第三債務者との間で牛乳や乳製品の宅配業務を行う継続的な業務委託契約を締結し、毎月報酬を得て生活していました。ところが、基本事件でその6か月分の報酬全額が差し押さえられたため、Xは「この報酬は給与と同視されるべきであり、全額差し押さえられるのは不当である」として、民事執行法153条1項に基づく差押えの範囲変更申立てを行いました。
■争点:業務委託報酬が「給与債権」と同視できるか
民事執行法152条1項2号は、「給与その他これに類する収入」に該当する債権について、生活保障の観点から一定額以上の差押えを禁止しています。これに関連し、153条1項では、差押禁止債権について、「債務者の生活の状況に著しい変動があったとき」などに差押えの範囲の変更(拡大・縮小)を申し立てることが可能です。
ここで問題となるのが、Xの受け取っている報酬が「給与債権」と同視できるかどうか、という点です。
■裁判所の判断:実質的に給与と同視できる
大阪地裁は、以下の事実関係を重視して、Xの報酬債権を実質的に給与債権と同視しうると判断しました:
- 業務委託は継続的かつ毎月報酬が支払われる契約形態であること
- 月25日程度の勤務実態があること
- 報酬は月額20万円未満で、生活の糧をこの収入のみに依存していること
- 他に収入や資産がないこと
これらの事情を総合すれば、Xが受け取っている業務委託報酬は、形式的には請負や委託であっても、実質的には給与に準じる生活収入とみなすことが相当であるとされました。
したがって、裁判所は、差押命令のうち報酬債権の全額差押え部分を一部取り消し、差押えの範囲を給与債権と同様の保護水準にまで縮小しました。
■差押禁止範囲の拡張主張は否定
一方、Xは差押えの範囲についてさらに広く制限すべきと主張しましたが、こちらは却下されています。理由としては、
- 嗜好品への支出(月2万円)や各種ローンの返済(月4万円)がある
- 食費や通信費(auかんたん決済等)も比較的高額である
- 収支状況を考慮しても、自助努力により対応可能な範囲にとどまっている
と判断され、生活困窮の程度が差押禁止債権のさらなる拡張を正当化するほど深刻ではないと評価されました。
また、ローン返済を理由に差押えを制限すれば、他の債権者への支払を優先させることとなり、債権平等原則に反するため、考慮要素にはなり得ないと明示されています。
■判例の意義と実務上の影響
本件は、形式的には業務委託契約に基づく報酬であっても、実態として給与と同視できる場合には、民事執行法152条・153条に基づく差押え制限が及ぶ可能性があることを明確に示した点で意義深いといえます。
特に、近年のフリーランスの増加に伴い、雇用によらない継続的就労形態が広がる中で、本判例はその生活保障的観点からも重要な先例といえるでしょう。
実務的には、差押命令に基づく執行手続において、債務者側からの抗弁や申立てが適切に主張されれば、報酬債権に対する全額差押えが制限される可能性があるという点に留意する必要があります。
【まとめ】
業務委託報酬でも、生活維持のための継続的な収入であれば「給与債権」と同視され、差押え制限が及ぶことがある。
差押禁止の範囲変更は、民事執行法153条1項に基づき申し立て可能。
裁判所は債務者の生活実態(収入、支出、資産の有無)を総合的に判断。
債務者の自助努力可能性や、債権者平等の原則も考慮される。
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この記事を書いたのは:
前田 大樹